「本日は取材を受けて頂いてありがとうございます。
 ブルマシンジケートの黒幕にお会いできて光栄です」

はじめまして。

『構わないさ。それに女性の方とブルマの話をするのは久しぶりでね』
n1
「ですが、取材である以上、聞きにくいことをお伺いすることもあるかもしれません。」

『それも、構わないさ。』
n2
「ではお伺いします。まず貴方にとって、ブルマとは何ですか?」
n3
男はおもむろに帽子とサングラスを取り、宇宙を一瞥した。

『・・・その質問には最後に答えたい。勝手を言ってすまないが…』

「いえ、お気になさらず。では先ほど申し上げました聞きにくいことですが―」

価格表

『ぼったくりのことかい?』

「はい。貴方は相場の2倍から3倍の値段でブルマをさばいています。
 主にこれがブルマシンジケートが反社会的組織と目されている理由なのですが、
 一体どういったお金の流れがあるのかをお聞かせ願いたいのです。」
よろしい?

『―――ないさ。
 金の流れなんか無い。売れたことが無いんだ。』


「それを報道を見たものが信じると?」

『信じない…かもしれない。だがそれでも売れていないんだ。』

「何年もマイショを7枠も無駄にしている、それが本当だとして、何故そのようなことを?」
n4
『君なら他で20Mで売っているものを50Mで買うかい?
 同じ商品が価格順にソートされているのに?』


「いえ、まず買いません。だからこそ、なにか他の目的があるのではないかと考えられるわけです。」

『他の目的、か。確かに。それはある。
 例えば、あと一ヶ月でPSO2がサービス終了になるとする。
 適正価格のブルマは全て売れてしまった。適正だからね、そういうこともあるだろう。』


私は頷いたが、話の流れが全くわからない。男の言葉は続く。

n5
『その時、どうしてもブルマが欲しくてたまらない者が現れたとしたら?
終わりつつある世界で、新たな入荷は無い。だがどうしても、本当にどうしてもブルマが欲しい。
これは別に巫女服でもバニーでも良いんだ。私にとってそれがブルマだっただけのことだ。
PSO2で自分が持つ全てを投げ打ってでも欲しいモノができたとき、
1Mでも1Gでも関係ないと思う者が現れたら・・・
その時売れればいいんだ。いや、きっと最期まで売れないだろうが。
だから私は時々相場をチェックし、普通なら絶対に売れない値段に設定しなおしている。』


私は絶句した。この男は狂っている。
きっと来ないとわかっている、他人の危機に備えているのだ。
それはもはや善意などではなく、純然たる狂気だろう。

『イカれていると思うだろう?』

「―――はい。」
私はその時、男の表情が、初めて少し笑ったように感じた。

『最初の質問に戻ろうか。』
まあ・・・
「ええ。改めて聞かせてください。
 貴方にとって、ブルマとは何ですか?」

『決着を付けねばならない、執着、だろうか。』
n6

決着、執着、思いがけない剣呑な響きに私は呆けてしまった。
男は語り続けた。

『―――ああ、すまない。これでは全く伝わらないだろう。
 ある少年の話だ。学生時代のある時点までは当たり前のようにブルマがあった。
 しかし、それは突然消えた。前触れもなく、本当に突然。』


『―――少年は初恋に気付くと同時に失恋していた。
 1秒のズレもなく、恋に胸を躍らせる時間さえ与えられず、
 自身には一切関与できない、関与しようのない事情でその喪失は起こり、
 そして只の一度たりとも言葉にはできなかった。ブルマはどこに消えた、と。』


『―――愚かな少年は自身が傷付いていたことにさえ気付いていなかったんだ。
 今思えば、本当は叫びたかったんだ。壁に向かってでも、穴に向かってでも叫ぶべきだった。
 「ブルマを愛している」と。二度と出会えないとわかっていても、だ。』
 

n7
『―――そして時は過ぎ、全く予期せず、PSO2の中で再び出遭ってしまった』

「恋が、再び動き始めた、と?」

『―――いや、動いてはいないさ。ただ、思い出してしまった。
 優れた画家が初恋の人を描いたら、きっと生涯最高の出来になるんじゃないか、と私は思う。
 私は画家じゃないが、そう、何かせずにはいられなかったんだ。』


『―――勿論、どんな名画を描き上げても、画家は失恋したままだ。
 わかっている。わかってはいるんだ。だから―――』


「いつか来るPSO2の終わりが【執着】を断ち切る【決着】なんですね」

『―――ああ。その通りだ。 
 ―――もう、いいかな?』


男は一瞬だけ迷子になった子供のような表情を見せた気がした。
その後簡素なやり取りを済ませ、私は部屋を出た。
男は一貫して私の眼を見て話し、そして私のブルマをただの一度も直視しなかった。

彼は童貞だ、と私は思った。


お し ま い

それでは今回はこの辺で。
みなさん良いキャラクリライフをノシ